- BOMの員数と生産計画から部品ごとの必要数量を出し、見積を「比較期間の総額」にそろえて比べる。
- 型費・MOQ・リードタイムを総額に入れ、比較期間を変えると推奨が入れ替わる点(損益分岐)を示す。
- 推奨を、前提・感度・決めてほしいことの3点セットで、判断者が読める1枚にまとめる。
1. この仕事のお金の構造
部品の価格は動いています。中小企業庁の調査では、受注側中小企業がコスト上昇分を価格に転嫁できた割合は54.2%(2026年3月)で、発注側には値上げの申し入れが続いています。2026年1月からは取適法により、価格協議の求めに応じず一方的に代金を決めることが禁止されました。見積の比較は、相見積で安い会社を探すためだけでなく、値上げの根拠を確かめ、条件をそろえて協議するための材料でもあります。
比較を誤ると、損失は単価差よりも大きくなります。型費の安い会社を選んで単価が高ければ長く使うほど損をし、MOQの大きい会社を選べば在庫と廃棄が増え、納期の長い会社を選べば安全在庫が増えます。企業側の判断の全体像は代替部品の切替判断の記事にあります。
2. 必要なスキルと学ぶ順番
- BOMの読み方:親子関係、員数、単位、有効日。製品1台あたりの材料費を積み上げられる。
- 見積条件の言葉:単価・型費(イニシャル)・MOQ・リードタイム・有効期限・支払条件・荷姿。
- 表計算での整理:部品番号の表記揺れをそろえ、単位を換算し、ピボットで集計する。
- 総額比較と感度分析:比較期間の総額、損益分岐の数量、前提を変えたときの順位。
- 取引のルール:取適法の基本(一方的な代金決定の禁止、型の無償保管の問題)と、仕入先の技術情報の扱い。
- 報告の書き方:結論・前提・感度・決めてほしいことを1枚に。
求人の必須要件・年収は企業ごとに異なるため、この記事では断定しません。応募先の募集要項で確認してください。
3. 合成データ(演習用)
以下はすべて演習用の合成データです【架空例】。実在の製品・会社・価格ではありません。
BOM:製品X(年間生産12,000台)
| 部品番号 | 品名(BOMの表記) | 員数 | 年間必要数 | メモ |
|---|---|---|---|---|
| P01 | 樹脂カバー | 1 | 12,000 | 専用金型が要る |
| P02 | ねじM3×8 | 4 | 48,000 | 見積では「M3x8 ネジ」と表記 |
| P03 | 制御基板 | 1 | 12,000 | |
| P04 | コネクタ | 2 | 24,000 | 見積は100個単位の価格 |
| P05 | ゴムパッキン | 1 | 12,000 |
P01(樹脂カバー)の見積3社
| 仕入先 | 単価 | 型費(別途) | リードタイム | MOQ |
|---|---|---|---|---|
| S1 | 210円 | 1,500,000円 | 6週 | 3,000個 |
| S2 | 180円 | 2,400,000円 | 10週 | 6,000個 |
| S3 | 195円 | 1,800,000円 | 8週 | 2,000個 |
その他の部品の単価(決定済みとして使う):P02 3円、P03 850円、P04 4,500円/100個(=45円)、P05 22円。
4. 演習の手順と模範解答
- 表記と単位をそろえる:P02の「M3x8 ネジ」をBOMの「ねじM3×8」に寄せる。P04の100個単位の価格を1個45円に換算する。ここを飛ばすと集計が二重になる・桁がずれる
- 必要数量を出す:員数×年間生産台数。比較期間を3年と置くとP01は36,000個。
- 比較期間の総額を出す:単価×数量+型費+在庫の資金コスト。
- 感度を見る:比較期間(2年・3年・5年)を変えて順位が変わるか、損益分岐の数量を出す。
- 単価以外を確かめる:リードタイムと生産計画、MOQと在庫・廃棄、型の所有と保管。
- 推奨を書く:推奨、理由、前提、感度、決めてほしいこと。
模範解答:P01の3年総額
在庫の資金コストは「平均在庫=MOQの半分」×単価×年10%×3年で概算。
| 仕入先 | 単価×36,000個 | 型費 | 在庫の資金コスト | 3年総額 |
|---|---|---|---|---|
| S1 | 7,560,000円 | 1,500,000円 | 94,500円 | 9,154,500円 |
| S2 | 6,480,000円 | 2,400,000円 | 162,000円 | 9,042,000円 |
| S3 | 7,020,000円 | 1,800,000円 | 58,500円 | 8,878,500円 |
計算:S1の在庫資金=1,500個×210円×10%×3年=94,500円。S2=3,000個×180円×10%×3=162,000円。S3=1,000個×195円×10%×3=58,500円。
比較期間を変えると
| 比較期間(数量) | S1 | S2 | S3 | 最安 |
|---|---|---|---|---|
| 2年(24,000個) | 6,540,000円 | 6,720,000円 | 6,480,000円 | S3 |
| 3年(36,000個) | 9,060,000円 | 8,880,000円 | 8,820,000円 | S3 |
| 5年(60,000個) | 14,100,000円 | 13,200,000円 | 13,500,000円 | S2 |
この表は単価×数量+型費のみ(在庫の資金コストを除く)。S2とS3の損益分岐の数量=型費の差600,000円÷単価差15円=40,000個(約3.3年分)。
単価が最も安いS2は、4万個を超えて使う場合にだけ有利です。製品Xの販売期間が3年程度なら、推奨はS3です。ただしS2を選ぶと型費が60万円高く、MOQも大きいため、販売が計画を下回ったときの損失が大きくなります。
模範解答:製品1台あたりの材料費
S3を採用し、型費を3年36,000個で割り振ると、P01は195円+50円=245円。P02 3円×4=12円、P03 850円、P04 45円×2=90円、P05 22円。合計=245+12+850+90+22=1,219円。
結論:P01はS3に発注することを推奨。3年総額は8,878,500円で3社のうち最小。
前提:販売期間3年・年12,000台、型費は別払い、資金コスト年10%。
感度:単価と型費だけで比べると、累計4万個(約3.3年)を超えて販売が続くならS2が有利(在庫の資金コストを含めると分岐はさらに先になる)。販売期間の見通しを確認したい。
決めてほしいこと:販売期間の前提、金型の所有者と量産終了後の保管・廃棄の扱い。
5. 追加演習:値上げの申し入れを読む
比較の次によくある仕事が、仕入先からの値上げの申し入れへの対応です。中小企業庁の調査では、コスト要素別の価格転嫁率は原材料費55.7%、労務費50.0%、エネルギー費48.9%(2026年3月)で、要素ごとに転嫁の進み方が違います。申し入れは「何のコストが、いくら上がったか」に分けて読みます。
以下は演習用の合成データです【架空例】。
| 確認すること | 模範解答 |
|---|---|
| 年間の影響額 | 50円×12,000台=600,000円 |
| 内訳の合計 | 30+15+5=50円で申し入れ額と一致 |
| 製品1台あたりの材料費 | 1,219円→1,269円(+4.1%) |
| 根拠として求める資料 | 材料の公表価格の推移、賃上げの実施状況など、仕入先が出せる範囲の説明 |
| 報告に書くこと | 影響額、内訳、協議の記録(いつ・だれが・何を説明したか)、受け入れの範囲と理由 |
計算:50÷1,219≒4.1%。
取適法のもとでは、協議の結果として申し入れの全部または一部を受け入れないことは直ちに違反にはならないものの、その場合は理由を十分に説明することが必要とされています(公正取引委員会のQ&A)。演習の報告書でも、受け入れなかった部分の理由を書く欄を設けます。代替の見積を取る場合も、協議と並行して進め、比較結果を協議に応じない理由にしないことが大切です。
6. 成果物の評価基準
| 観点 | 合格の目安 | よくある不合格 |
|---|---|---|
| データの整理 | 表記揺れと単位を直し、直した箇所を一覧にしている | 100個単位の価格をそのまま比較 |
| 数量 | 員数×生産台数で出し、比較期間を明記 | 年間生産台数をそのまま使う |
| 総額 | 単価×数量+型費+在庫の費用で比べる | 単価だけで順位を付ける |
| 感度 | 比較期間を変えた順位と損益分岐を示す | 1つの前提だけで結論 |
| 単価以外 | リードタイム・MOQ・型の所有と保管に触れる | 型費の扱いに触れない |
| 検算 | 合計を別の計算で確かめた跡がある | 表の合計が式と合わない |
| 報告 | 結論・前提・感度・決めてほしいことが1枚にある | 計算表だけを渡す |
7. つまずきやすい点と注意
- 型費の扱い:型費を単価に含める見積と別払いの見積が混ざります。どちらかにそろえてから比べます。量産が終わった後の型の保管について、発注しないのに無償で保管させることは取適法上問題になると当局が明示しています。保管・廃棄の扱いは見積の段階で確認します。
- MOQと廃棄:MOQが大きいと、設計変更や販売終了のときに残る在庫が増えます。
- 見積の有効期限:期限切れの見積と新しい見積を並べると、市況の差を仕入先の差と取り違えます。
- 実データを持ち出さない:演習・ポートフォリオには合成データを使います。勤務先の見積や仕入先名を載せると、守秘義務に反するおそれがあります。
- 値下げ要求の材料にしない:相見積の結果を、協議をせずに一方的な値下げの根拠にすることは避けます。