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審査・信用リスク関連の職務を切り分ける:責任範囲・募集要項・選考課題の作り方

融資審査や信用リスクの求人では、同じ「モデル」という言葉でも、作る人・検証する人・使う人・支える人で仕事がまったく違います。特に、モデルを作る人と独立して検証する人は、金融庁の原則で役割を分けることが求められており、同じ人に兼ねさせる募集は応募者の期待とずれやすくなります。この記事は、採用する金融機関と、その求人を扱う担当者が、職務を正しく切り分けて伝えるための整理です。

記事ID YS-005/更新日 2026年10月12日/数字は出典の時点のもの。【推定】【架空例】は本文で明記

要点
  1. 職務は、審査担当、信用リスク管理、モデル開発、モデル検証、データ/システムの5つに分けて考えます。モデル開発(第1線)とモデル検証(第2線)は兼務させない前提で書きます。
  2. 募集要項には「業務フローのどこで、何を決める仕事か」と「何を決めない仕事か」を書きます。特に、個別案件の決裁と、モデルの使用承認の権限がどこにあるかを明記します。
  3. 選考課題は合成データで行い、精度の高さよりも、前提・限界・責任の書き分けを評価します。実在企業の資料や個人の信用情報は使いません。

1. 仕事が生まれる場所:お金と業務の流れ

全国銀行の貸出金は2026年3月末に前年同月末比28兆538億円(4.6%)増え(全国銀行協会)、2025年度の信用コスト率は大手行7bp、地域銀行6bp、信用金庫7bpでした(日本銀行)。2026年5月25日には事業性融資推進法が施行され、事業全体を担保とする企業価値担保権が使えるようになりました。

業務と金額構造は企業向けの解説、モデル・リスク管理の3線は体制の解説にまとめています。この記事では、それを担う職務に分解します。

2. 5つの職務と責任範囲

職務主な場面決めること決めないこと確認したい経験
審査担当(審査部・営業店の融資担当)案件の審査、稟議個別案件の審査意見、例外の判断、上書きの理由の記録モデル・ルールの変更、自分の権限を超える決裁財務分析、実態把握、資金使途と返済原資の確認、稟議書の作成
信用リスク管理ポートフォリオ管理、格付制度、引当与信集中の管理案、格付制度の運用、信用コストの見通しの報告個別案件の可否信用リスクの計量、ストレステスト、規程の運用
モデル開発(第1線)スコアリング・PDモデルの開発と監視モデルの設計、開発時のテスト、監視指標の案使用の承認、自分の検証の合格ロジスティック回帰など、識別力・キャリブレーションの評価、時系列の検証、文書化
モデル検証(第2線)独立検証、インベントリーの維持検証の結論、使用の承認・条件・制限の提案モデルの開発、営業目標統計の検証手法、指摘を書く力、開発者と独立した立場での議論
データ/システム審査システム、資料の取り込み、データ基盤データの定義と品質、ログの保存、資料整理の仕組みの品質判定基準データ基盤、文書の読み取りと照合の仕組み、アクセス管理

表は編集部の整理です。組織によって名称や担当範囲は異なります。金融庁の原則の解説では、通常は第2線の部署でも、開発や使用に携われば第1線になりうるとされています。

3. 募集要項の書き方

書く項目(例:モデル検証の募集)

  • 所属と線:リスク管理部門(第2線)。開発部門とは別の報告ライン。
  • 対象のモデル:事業性融資のスコアリング、PD推定など。件数の目安(公表できる範囲で)。
  • 決めること:検証の結論、使用の条件・制限の提案、指摘の対応状況の確認。
  • 決めないこと:モデルの開発、個別案件の可否。
  • 使う資料:開発文書、テスト結果、インベントリー、モニタリング報告。
  • 求める経験:「識別力とキャリブレーションの評価を、前提と限界を含めて文書にした経験」のように、成果物で書く。
  • 入社後の最初の課題:例「既存モデル1本の再検証報告を3か月で作る」。

書く項目(例:審査の資料整理の仕組みを担うデータ/システムの募集)

  • 所属:融資の事務・システム部門。審査部と協働するが、審査の判断はしない。
  • 対象の業務:決算書・借入明細などの受付、抽出、照合、審査担当者への引継ぎ。
  • 決めること:抽出と照合の品質基準、例外の区分の基準案、ログと変更の記録。
  • 決めないこと:可否・条件の判断、権限規程。
  • 求める経験:「帳票の読み取り結果を正解データと照合して評価し、誤りの種類別に改善した経験」のように書く。
  • 扱うデータ:顧客の資料を扱うため、アクセス管理と守秘の規程に従うことを明記する。

避けたい書き方は次のとおりです。

4. 選考課題(合成データのみ)

職務課題の例(所要2〜4時間)主に見る観点
審査担当架空の会社2期分の決算書と資金使途のメモを渡し、審査で確認したい点と追加で依頼する資料を挙げる数字の整合の確認、返済原資の考え方、確認の優先順位
信用リスク管理架空の貸出ポートフォリオ(業種・等級・残高)から、業種別の集中と信用コストの見通しを1枚にまとめる前提の置き方、感応度の示し方、報告の分かりやすさ
モデル開発合成の財務データでPDモデルを作り、アウトオブタイム検証と等級別の予測・実績の表を出す分割の妥当性、識別力とキャリブレーションの書き分け、限界の記述
モデル検証架空の開発文書(意図的に不備を入れたもの)を渡し、検証の指摘を重要度つきで書く不備の発見、指摘の根拠、使用条件の提案
データ/システム不整合を仕込んだ合成の決算書PDFから、抽出・照合・例外一覧を作る照合ルールの設計、根拠の表示、誤りの分類

評価の方法はモデルの評価の記事と決算書整理AIの記事の「成果物の評価基準」を、そのまま採点表に使えます。

5. 評価観点(共通)

観点高い評価低い評価
責任の書き分け誰が決める・決めないかを明記「モデルが融資を決める」「AIが審査する」
前提と限界データの期間、観測できない部分(否決先など)、景気の局面を書く結果の数字だけ
お金への換算信用コスト・工数・機会損失のどれが動くかを示す精度の改善だけを報告
データの扱い合成データのみ。実在企業・個人情報を使わない理由を理解前職の資料や実在企業の決算書を持ち込む
記録後から第三者が再現・確認できる文書口頭説明に頼る

応募者に前職の社内資料や顧客の情報を見せてもらう選考はしません。守秘義務に反するおそれがあり、評価にも使えません。

6. 面接で確かめる質問

経歴書の職種名だけでは、同じ「信用リスク」でも担当範囲が大きく違います。面接では、扱った資料・決めた範囲・書いた成果物を具体的に聞きます。前職の社内情報や顧客情報を話してもらう必要はなく、「どういう手順で何を判断したか」を一般化して説明してもらえば十分です。

職務質問の例良い答えの特徴
審査担当決算書の数字は良いのに、審査で懸念を持ったのはどんなときか。そのとき何を確かめたか資金繰り・取引先・内訳の確認など、数字の裏を取る手順が具体的
信用リスク管理信用コストの見通しを経営に報告するとき、前提が外れた場合をどう示したか前提と感応度を分けて示し、外れたときの対応まで書いている
モデル開発検証担当から受けた指摘で、最も対応が難しかったものは何か指摘を受け止め、文書と再テストで対応した経緯を説明できる
モデル検証開発者と意見が合わなかったとき、どう結論を出したか根拠と重要度で整理し、条件付き承認などの落としどころを示せる
データ/システムデータの定義が部署ごとに違っていたとき、どう統一したか定義の文書化、変更の記録、利用者への周知まで説明できる

7. 入社後90日の到達目標(募集要項に書ける形)

到達目標を募集の段階で示すと、応募者は自分の経験との距離を判断しやすくなり、入社後のずれも減ります。

職務30日60日90日
審査担当権限規程と審査の手順を理解し、先輩の審査に同席小口案件の審査意見を作成(決裁は上席)担当範囲の案件を一通り担当
モデル開発インベントリーと既存モデルの開発文書を読むモニタリング報告を1回作成改善案を開発文書の形で提出
モデル検証検証規程と過去の検証報告を読む既存モデルの再検証に参加再検証報告の主担当
データ/システム審査に使うデータと資料の流れを図にするデータ品質の確認項目を整理改善を1件、変更記録つきで実施

表は書き方の例です。実際の到達目標は各社の体制と業務量に合わせて決めてください。

8. 失敗・見直しの判断

この記事は採用の設計の解説です。特定の人材サービスの紹介や、需要・年収の見通しの断定はしません。

9. 関連する記事

出典(2026年10月12日確認)

  1. 金融庁「モデル・リスク管理に関する原則」(2021年11月12日)
  2. 金融庁「金融庁『モデル・リスク管理に関する原則』の狙いと要点解説」(金融財政事情 2021年12月14日掲載)
  3. 全国銀行協会「全国銀行 預金・貸出金速報 ― 2026年3月末・2025年度中 ―」(2026年4月9日)
  4. Bank of Japan「Financial Results of Japan's Banks for Fiscal 2025」(2026年9月4日)
  5. 金融庁「金融仲介機能の発揮/事業性融資の推進(企業価値担保権等)」