- VA/VEは「機能を落とさずにコストを下げる」取り組みです。承認の場では、機能(品質)を判断する人とコストを判断する人を分け、両方の合意で決めます。
- 効果額は「年間数量×単価差−一時費用」で計画し、実施後は実際の数量×実際の単価差で測り直します。原材料の市況による値動きは効果から切り分けます。
- 承認の時点で「どの数字が出たら元に戻すか」を決めておきます。戻した案も記録に残し、提案した人や仕入先の評価を下げる材料にしません。
1. VA/VEは何を評価するのか
日本バリューエンジニアリング協会は、VEを「最低のライフサイクルコストで、必要な機能を確実に達成するために、製品・サービスの機能的研究に注ぐ組織的努力」と定義し、価値(V)=機能(F)÷コスト(C)の関係で捉えるとしています。製造業では、量産中の部品を見直すものをVA、設計段階で取り組むものをVEと呼び分ける使い方もあり、この記事では両方をまとめてVA/VEと書きます。
定義にあるとおり、評価の対象は「単価」ではなく「必要な機能を満たしたうえでのライフサイクルのコスト」です。材質を変えて単価が下がっても、寿命が縮んで保証費用が増えれば価値は下がります。承認の場で機能の判断が抜けると、VA/VEは単なる値下げ要求と区別がつかなくなります。
2. お金の構造:見込額が目減りする4つの理由
- 数量:見込額は計画数量で計算されます。製品の販売が計画を下回れば、削減額もその分減ります。
- 一時費用:金型の新作・修正、評価試験、顧客への変更申請、治具、旧仕様部品の廃棄。提案書で抜けやすい項目です。
- 市況:原材料の値上がりで、VA/VEの効果が単価の上昇に打ち消されることがあります。中小企業庁の調査では、受注側中小企業の原材料費の価格転嫁率は55.7%(2026年3月)で、仕入先の単価にはまだ上昇圧力が残っています。
- 品質:実施後の不良・クレームで仕様を戻すと、一時費用は戻らず、戻すための費用が加わります。
3. 効果額の式と比較表(計算例)
実績効果 = 実際の数量×実際の単価差(VA/VE由来の分だけ) − 実際の一時費用 − 戻した場合の費用
架空例:年間30万台の製品に使う部品の3つの提案【架空例】
以下は説明用の架空の数字です。実在企業の実績ではありません。評価期間は3年。
| 提案 | 単価差 | 年間削減 | 一時費用 | 3年の計画効果 | 品質リスク |
|---|---|---|---|---|---|
| A:金属ブラケットを樹脂に変更 | 18円 | 5,400,000円 | 5,200,000円 | 11,000,000円 | 中(強度・耐熱の評価が要る) |
| B:ねじの点数を減らす | 9円 | 2,700,000円 | 1,000,000円 | 7,100,000円 | 低 |
| C:表面処理の仕様を緩める | 12円 | 3,600,000円 | 3,000,000円 | 7,800,000円 | 高(腐食・外観。顧客承認が要る) |
計算:A=18円×300,000台×3年−5,200,000円(金型新作4,000,000円+評価1,200,000円)=11,000,000円。B=9円×300,000×3−1,000,000円(治具600,000円+評価400,000円)=7,100,000円。C=12円×300,000×3−3,000,000円(評価2,000,000円+顧客承認1,000,000円)=7,800,000円。
計画効果だけで並べるとA→C→Bの順ですが、Cは品質リスクが高く、戻す可能性があります。承認の場では、効果額と品質リスクを同じ表で見て、リスクの高い案には「戻す条件」を付けて承認します。
戻した場合の計算【架空例】
Cを実施した半年後に、顧客から腐食の指摘を受けて元の仕様に戻したとします。実際に得た削減は3,600,000円×0.5年=1,800,000円。一時費用3,000,000円は戻らず、戻すための再評価500,000円と、緩めた仕様で作った在庫の廃棄1,500,000円がかかりました。
実績効果=1,800,000円−3,000,000円−(500,000円+1,500,000円)=−3,200,000円。計画では7,800,000円の効果だった案が、実績では320万円の損失です。この数字を記録に残すことが、次の提案の評価を正確にします。
数量が下がった場合【架空例】
Aの実際の数量が年18万台だった場合、3年の実績効果は18円×180,000×3−5,200,000円=9,720,000−5,200,000=4,520,000円で、計画の約4割にとどまります(4,520,000÷11,000,000≒41%)。
4. 合議の進め方:だれが何を判断するか
| 役割 | 判断すること | 判断しないこと |
|---|---|---|
| 設計 | 機能が満たされるか、図面の変更範囲、ほかの部品への影響 | 単価・発注先 |
| 品質保証 | 評価計画と合否、顧客への変更申請の要否、戻す条件の指標 | 効果額の大小 |
| 調達 | 単価差・一時費用の見積、仕入先との条件、市況との切り分け | 機能・品質の合否 |
| 生産技術・製造 | 工程・治具の変更、切替の段取り | 承認の可否 |
| 経理(原価) | 効果の集計方法、計画と実績の照合 | 技術判断 |
| 事業責任者(承認者) | 承認・保留・却下、戻す条件の承認 | 個別の技術判断 |
提案の種類別に見ること
| 提案の種類 | 機能の確認で見ること | 抜けやすい一時費用 | 戻しやすさ |
|---|---|---|---|
| 材質の変更 | 強度・耐熱・耐薬品・寿命、規制物質への対応 | 金型の新作・修正、材料の評価試験 | 低い(金型と在庫が変わる) |
| 形状・部品点数の削減 | 組立性、他部品との干渉、保守のしやすさ | 図面変更、治具、組立手順書の改訂 | 中 |
| 工程・加工方法の変更 | 寸法のばらつき、外観、検査方法 | 工程の再認定、検査治具 | 中 |
| 仕様・公差の緩和 | その仕様が守っていた機能は何か、顧客要求との関係 | 顧客への変更申請、評価試験 | 低い(顧客承認をやり直す) |
| 部品の共通化 | 共通化先の部品で全製品の機能を満たすか | 旧部品の廃棄、BOMの一括変更 | 中 |
表は編集部の整理です。「戻しやすさ」が低い提案ほど、承認時に戻す条件と在庫の上限を厳しく決めます。
承認の手順
- 提案の受付:提案者・対象部品・期待する機能・単価差・一時費用を決まった様式で受ける。
- 機能の確認(設計):機能の定義を書き、その機能が満たされる根拠を示す。
- 評価計画(品質):試験項目・期間・費用、顧客承認の要否。
- 効果額の算定(調達・経理):3節の式で、数量の幅(計画・下振れ)を付けて出す。
- 合議と承認:品質リスクの高い案には、戻す条件(不良率・クレーム件数など)と、戻す判断をする人を決める。
- 実施と記録:切替日、旧仕様の在庫、BOMの有効日。
- 効果測定:四半期ごとに実績効果を計画と並べる(5節)。
5. 効果測定:計画と実績、市況の切り分け
実施後の単価の変化には、VA/VEによるものと、原材料・労務費・エネルギー費の変動によるものが混ざります。仕入先が別途コスト上昇分の値上げを申し入れてきたとき、VA/VEの効果と相殺して「単価は変わらなかったから効果ゼロ」と扱うと、どちらの議論も正しくできません。
| 指標 | 測り方 | 報告先 |
|---|---|---|
| VA/VE由来の単価差 | 旧仕様と新仕様を同じ時点の原材料単価で見積もり直した差 | VA/VEの効果報告 |
| 市況による単価変動 | 仕入先からの価格改定の申し入れと根拠 | 価格協議の記録 |
| 実際の数量 | 実施日以降の使用実績 | 効果報告 |
| 一時費用の実績 | 金型・評価・承認・廃棄の実額 | 効果報告 |
| 品質指標 | 戻す条件に決めた不良率・クレーム件数 | 品質・承認者 |
報告は「提案件数」と「計画効果の合計」だけでなく、「実績効果」「戻した件数と損失」を並べます。計画効果に対する実績効果の比率を提案の種類別(材質変更・形状変更・仕様緩和など)に追うと、次に承認するときの割り引き方が分かります。
6. よくある失敗と注意点
- VA/VEを値下げ要求の言い換えにする:機能の検討をせずに「VAで5%下げて」と求めるのはVA/VEではありません。なお、仕入先から価格協議の求めがあったのに応じず一方的に代金を決めることは、2026年1月施行の取適法で禁止されています。
- 仕入先の技術提案をただで使う:公正取引委員会・中小企業庁・特許庁は2026年6月の指針で、発注者が正当な理由なく技術情報やノウハウの無償提供を求め、受注者が今後の取引を懸念して応じざるを得ない場合は優越的地位の濫用として問題となるおそれがあると示しています。この考え方をふまえ、仕入先のVA提案を他社への発注に流用しない、提案の対価や採用時の扱いを先に決める、といった社内ルールを持つことを勧めます(このルールは編集部の整理です。個別の当てはめは指針の原文と専門家で確認してください)。
- 一時費用を提案書に入れない:金型・評価・廃棄が抜けた提案は、承認の場で差し戻します。
- 戻す条件を決めずに承認する:問題が出てから議論を始めると、戻すまでに在庫が積み上がります。
- 戻した案を失敗として隠す:戻した案の記録がないと、同じ種類の提案が繰り返されます。見送り・延期も前提とともに残します。
部品そのものを別の部品に置き換える判断は代替部品の切替判断の記事で、総コストの比較表とあわせて扱っています。